【調達人材育成】取適法を遵守しながら成果を出す!調達部員の「価格交渉力」を高める指導のポイント5つ
- 「取適法で『買いたたき』などの禁止事項が強化され、調達部員にどこまで踏み込んだ価格交渉をさせてよいのか、その境界線の伝え方に苦心している・・・。」
- 「原材料高騰が続く中で、法令を守りながらもコスト削減の成果を求められる調達部員の負担を理解しつつ、調達チームとしてどう成果を出すべきか正解が見えない・・・。」
- 「根拠のない一方的な交渉は避けるよう指導しているが、調達部員によって交渉の質にバラつきがあり、調達チーム全体として法令を遵守した適正な交渉ができているか確信が持てない・・・。」
2026年1月から取適法の施行が始まり、現場での運用が本格化する中で、調達マネジャーの皆様はこれまでにない難しさを感じていらっしゃるのではないでしょうか。法令を厳格に遵守しながら、同時にコスト削減という成果も求められる状況下で、調達部員の皆様にどのようなバランスで交渉を任せるべきか、日々、その舵取りの難しさと向き合っていらっしゃることと思います。
しかし、「買いたたき」や「代金の減額」といった禁止事項に抵触しないよう細心の注意を払いつつ、それでも必要なコスト交渉を進めていく必要があります。
この課題を乗り越えるためには、調達部員一人ひとりが仕入先とどのような対話を行い、どのような根拠を持って交渉に臨んでいるか、個別の状況に合わせたフォローを行うことが非常に大切になります。
今回のブログは、取適法を守りながら、調達チームとして着実に成果を出すための「価格交渉力」の高め方についてお伝えします。調達部員の皆様が自信を持って交渉の場に立てるよう、その指導のヒントについてご確認いただけたらと思います。
今回は、【調達人材育成】取適法を遵守しながら成果を出す!調達部員の「価格交渉力」を高める指導のポイント5つについてお伝えしますので、ぜひご覧ください。
【調達人材育成】取適法を遵守しながら成果を出す!調達部員の「価格交渉力」を高める指導のポイント5つ

適正な価格交渉のために知っておきたい取適法のルール
すでにご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、まずは取適法(中小受託取引適正化法)の概要についてご説明いたします。今回の法改正による変更点を正しく把握しておくことは、適正な価格交渉を進めるための第一歩となります。
1. 取適法の概要
これまでの「下請法」が法改正に伴い、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の遅延等の防止に関する法律」へと名称が変更されました。略称は「中小受託取引適正化法」、通称「取適法」と呼ばれます。 この改正により、これまでの「親事業者」は「委託事業者」に、「下請事業者」は「中小受託事業者」へと呼び方が変わっています。
2. 主な改正のポイント(概要)
主な改正のポイントは、以下の通りです。
- 適用対象の拡大
・適用基準への「従業員基準」の追加
適用対象となる事業者の基準に、従来の資本金額等による基準に加えて、新たに従業員数による基準が追加されました。従業員数300人(役務提供委託等は100人)
の区分が新設され、規制及び保護の対象が拡充されます。
・対象取引への「特定運送委託」の追加
適用対象となる取引に、製造、販売等の目的物の引渡しに必要な運送の委託が追加されます。
- 禁止行為の追加
・協議に応じない一方的な代金決定の禁止
代金の額に関する協議に応じないことや、協議において必要な説明又は情報の提供をしないことによる、一方的な代金の額の決定が禁止されます。
・手形払等の禁止
代金の支払手段について、手形払が禁止されます。また、その他の支払手段(電子記録債権や一括決済方式(ファクタリング等)など)についても、支払期日までに代金の額に相当する額の金銭を得ることが困難なものは禁止されます。
- 面的執行の強化
事業所管省庁において、取適法に基づく、指導及び助言ができるようになったほか、中小受託事業者が、違反事実を情報提供しやすい環境を確保するために、執行機関に申し出たことを理由に不利益な取扱いを禁止(報復措置の禁止)しており、この情報提供先として、公正取引委員会及び事業所管省庁が追加されます。
- その他
・製造委託の対象物品として、金型以外の型等(木型、治具など専ら物品の製造に用いる物品)が追加されます。
・発注内容等の明示義務について、中小受託事業者の承諾の有無に関わらず、電子メールなどの電磁的方法による明示が認められます。
・遅延利息の対象に、代金の額を減じた場合(減額)が追加されます。
・既に違反が行われていない場合でも再発防止措置等を勧告できるようになるなど勧告に係る規定が整備されます。
取適法の詳細については、下記サイトでご確認ください。
前回のブログでも詳しく解説していますので、合わせてご確認ください。
仕入先との価格交渉に関わる主な禁止事項
調達部員の皆様を指導するにあたっては、まず価格交渉において何が取適法で禁止されているのか、その具体的な項目を正しく把握しておくことが大切になりますので、合わせて確認しておきましょう。
- 代金の減額 (第5条第1項第3号)
中小受託事業者に責任がないのに、発注時に決定した代金を発注後に減額することです。協賛金の徴収、原材料価格の下落など、名目や方法、金額にかかわらず、あらゆる減額行為が禁止されています。
- 買いたたき (第5条第1項第5号)
発注する物品・役務等に通常支払われる対価に比べ著しく低い代金を不当に定めることです。通常支払われる対価とは、同種または類似品等の市価です。代金は中小受託事業者と事前に協議の上、定めることが必要です。
- 不当な経済上の利益の提供要請 (第5条第2項第2号)
委託事業者が自己のために、中小受託事業者に金銭や役務、その他の経済上の利益を不当に提供させることです。代金の支払とは独立して行われる、協賛金や従業員の派遣などの要請が該当します。
- 協議に応じない一方的な代金の決定 (第5条第2項第4号)
取適法を遵守しつつ、成果を出すための価格交渉の指導のポイント5つ
法令遵守を意識しすぎるあまり、調達部員の皆様の動きが消極的になってしまっては、調達チームとしての本来の役割を果たすことが難しくなります。大切なのは、禁止事項を避けるだけでなく、仕入先と「正当なプロセス」で対話を行い、お互いが納得できる着地点を見つけ出す力を育てることにあります。
指導ポイント① 仕入先のコスト構造を把握し、削減案を仕入先と協議する
- 事例紹介:コスト構造の把握と協議の進め方
状況:
原材料価格が高騰している部品のコスト削減交渉を行う。
コスト構造の把握:
仕入先から主要な原材料の比率、製造工程における加工時間、梱包・配送費の構成比を聞き取り、現状を整理する。
指導ポイント② VA/VE提案を積極的に行い、仕入先と原価低減を共同で実施する
単に仕入価格の引き下げを求めるのではなく、製品の機能や仕様そのものを見直すVA/VE提案は、取適法を遵守しながら大きな成果を上げるための有効な手段となります。- 事例紹介:VA/VE提案による原価低減の共同実施
状況:
既存製品のコスト競争力を高めるため、主要構成部品の原価低減に取り組む。
VA/VE提案の実施:
仕入先の製造ラインを視覚的に確認し、現在の設計仕様が製造工程において負荷となっていないかをヒアリングする。その結果、製品の機能に影響しない範囲で、加工精度を緩和できる箇所や、安価な代替素材へ変更できる可能性を特定する。
指導ポイント③ 仕入先にも利点がある条件を提示し、相互メリットのある交渉を指導する
取適法を遵守した適正な価格交渉において、仕入先に対して一方的な負担を強いるのではなく、双方が利益を得られる「相互メリット」の視点を持つことが重要になります。
仕入先にとってもコストダウンや業務効率化に繋がる条件を交渉材料として提示することで、納得感のある合意形成が可能になります。調達部員が自社の要望を伝えるだけでなく、仕入先の抱える課題を解消するような提案を準備できるよう、調達マネジャーとして指導することが大切になります。
- 事例紹介:相互メリットのある交渉シナリオの策定
状況:
物流費や管理コストが上昇している中で、仕入価格の維持または低減を目指す交渉を行う。
利点がある条件の提示:
現状の「少量多頻度」の発注形態を見直し、一定量をまとめて発注する「発注集約」や、配送ルートの効率化に繋がる納入スケジュールの調整を提案する。
相互メリットのある交渉:
発注側は物流費相当の価格低減を享受し、仕入先側は配送回数の削減による梱包費・人件費の抑制、および製造計画の安定化というメリットを得る。このように、お互いのコスト構造を改善する条件をセットで協議し、双方が納得できる着地点を決定する。
指導ポイント④ 交渉が難航した場合に備え、複数の着地点を想定したシナリオ作成を指導する
- 事例紹介:複数の着地点を想定したシナリオ作成
状況:
原材料高騰による正当な理由での値上げ要請に対し、転嫁を認めた上で、自社のコスト影響を最小限に抑えるための協議を行う。
シナリオの作成:
第一案「梱包資材の簡素化や回収・再利用を導入して付帯費用を削減する」
第二案「これまで仕入先が負担していた小口配送の取りまとめを自社で行い、物流コストを削減する」
指導ポイント⑤ 市場相場や指数の推移を分析し、根拠のある価格交渉ができるように指導する
- 事例紹介:市場相場や指数の推移を用いた目標設定
状況:
原材料価格が下落傾向にある品目について、市場の実勢を反映した価格への改定を提案する。
分析の実施:
公的な統計データから、過去半年間の原材料価格指数の推移をグラフ化する。また、製造に関わるエネルギー費や人件費の動向も併せて整理し、製品価格に与える影響度を算出する。
根拠のある交渉:
整理したデータに基づき、「主要原材料の指数が〇%下落しているため、製品単価を〇%低減できる可能性がある」という具体的な算定根拠を提示する。仕入先の個別事情も考慮しつつ、客観的な指標を共通言語として用いることで、感情論を避けた建設的な協議を行う。
まとめ
- 取適法の目的を正しく理解し、仕入先と誠実な協議を重ねることが、適正な価格交渉を進める上での前提となる。
- 指導ポイント① 単なる値下げの要請ではなく、仕入先の製造工程や原価の内訳を把握し、納得感のある協議を促すことが大切である。
- 指導ポイント② 仕入先の知恵を借りながら仕様や工程を見直し、双方が利益を得られる本質的な改善を共に進めるよう指導する。
- 指導ポイント③ 自社の要望だけでなく、発注形態の改善など仕入先にも利点がある条件を準備して交渉に臨むよう後押しする。
- 指導ポイント④ 正当な値上げを受け入れた上で、他の項目でコスト影響を抑制できる複数の着地点を想定しておくことが重要である。
- 指導ポイント⑤ 市場相場や指数の推移を分析し、誰に対しても説明のつく根拠を持って合意を目指せるよう指導する。
対話を大切にする指導で、法令遵守とコスト削減の実現を両立できる調達部門を築いていきませんか?
今回のブログでは、取適法で押さえておきたい禁止事項をご確認いただいた上で、仕入先の原価構造の把握から、客観的なデータに基づいた目標設定まで、具体的な5つの指導ポイントをお伝えしました。まずは、次の部内会議において、調達部員が現在抱えている交渉事案を一つ取り上げ、一緒に「複数の着地点」を考えることから始めてみてはいかがでしょうか。
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