【調達人材育成】「こだわり」と「コスト」の板挟みを突破せよ!2026年、市場から渇望される「調達プロフェッショナル」の5つの視点
視点① 「無理やり」ではなく「法律と数字」を根拠にして仕入先と交渉する
これからの時代、仕入先との力関係を背景にした「とにかく安くしてほしい」という価格交渉は、法改正(取適法)への準拠という観点からも、通用しなくなっています。しかし、それは「コストダウン交渉をしてはいけない」という意味ではありません。大切なのことは、市況データや法律という「客観的な事実」を共通言語にすることです。例えば、以下のような交渉を進めていきます。
交渉の例:原材料価格が落ち着いてきた局面
例えば、過去に原材料高騰を理由に値上げを受け入れた品目について、現在の市況データが下落傾向にある場合です。
「そろそろ安くしてくれないと、うちも厳しいんです」
「公的統計(日銀の企業物価指数など)を見ると、主原料の価格がピーク時から15%落ち着いています。当時の値上げ分を見直し、今の適正な価格へ再設定する協議をさせていただけないでしょうか。」
このように、政府の指針や市場の数字を「根拠」(共通の物差し)とすることで、仕入先も納得感を持って議論に応じることができます。
視点② 社内の「こだわり」に対し、「コストとリスク」をセットで相談する
調達現場でよくあるのが、開発や製造担当者の「譲れないこだわり」です。 例えば、「どうしてもこの産地のこの素材でなければならない」「この極めて高い精度(スペック)が必要だ」といった要望です。
良いものを作りたいという熱意は理解できても、調達部門としては「その条件では、今の市場価格では買えない」「そもそも供給できる先が1社しかなく、リスクが高すぎる」といったジレンマに陥ります。社内の熱意と、市場の現実。この板挟みを突破するために必要なのが、「コストとリスク」をセットで可視化して相談する視点です。「こだわりの特定素材」を使いたいという要望に対し、単に「高すぎるからダメです」と否定するのではなく、次のように提示します。
「その素材は予算オーバーです。もっと安いものに変えてください。」
「その素材を採用する場合、現行品よりコストが30%上がります。また、供給元が海外の1社に限定されるため、天候不順や物流遅延が起きれば、数ヶ月間ラインが止まるリスクがあります。それでもこの仕様で進めるか、あるいはリスク分散のために汎用的な代替品を一部検討するか、判断をお願いできますか?」
社内の「こだわり」を単に突っぱねるのではなく、それを実現するために「いくらかかるのか(コスト)」、そして「安定して買い続けられるのか(リスク)」という事実をテーブルに乗せることが大切です。 調達が「判断の材料」をセットで提供することで、社内の関係部署と「同じ目線」で最善の着地点を探ることができるようになります。
視点③ 「困った時に助け合える関係」を、平時から仕入先とつくっておく
平時の際、複数の仕入先で見積合わせを行い、最も安い先から購入する手法は、コスト管理において一定の合理性があります。しかし、常に「価格のみ」で選別し続ける方針には、大きなリスクが潜んでいます。
市場で在庫が逼迫したり、災害等で供給困難になったりした際、最後に自社を助けてくれるのは「価格の安さ」ではなく、それまでに積み上げてきた「信頼関係」だからです。
助け合える関係とは、「言いにくいことも言い合える関係」
真のパートナーシップとは、単に仲が良いことではなく、厳しい局面でこそ「仕事で必要なことを正直に言い合える関係」で、例えば以下のとおりです。
一方的に「遅延は困ります。なんとかしてほしい」と責任を押し付けるのではなく、「滞っている原因」を聴き、自社の検査工程を早めるなど、協力できることはないか一緒に考えます。
「急ぎなので明日までに」と無理強いするのではなく、「実は営業側で急な受注があり、どうしても助けていただきたいのです。今回無理をお願いする分、今後は早めに情報共有します。」と、社内の状況を丁寧に説明し、誠実に「お願い」をします。
調達の仕事は、平時にどれだけ「仕入先の立場」を想像し、誠実なコミュニケーションを積み重ねてきたかが、有事の際の供給力として跳ね返ってきます。 「安く買う」こと以上に、いざという時に「あなたのためなら」と動いてもらえる関係を耕しておくこと。それこそが、調達のプロとしてのリスクマネジメントです。
視点④ 「世界のニュース」を、「自社の欠品リスク」に翻訳する
日々流れてくる気候変動や国際情勢のニュースを、「自分たちには遠い国の出来事だ」と読み飛ばしてはいないでしょうか。 調達の現場では、「何かが起きてから対応すればいい」というスタンスでは手遅れになることが少なくありません。供給網が複雑に絡み合う現代、海の向こうの異変が、数ヶ月後に自社のラインを止める致命的な欠品となって現れるからです。
「翻訳する」とはどういうことか?
プロの調達人にとって、世界のニュースを「翻訳する」とは、情報の裏側にある「自社への影響」を読み解く作業です。 単なる知識として終わらせず、「この事象が起きているなら、あの原材料の流通が滞り、仕入先の製造コストが上がるかもしれない」と、自社のサプライチェーンに引き寄せてシミュレーションすることです。
「翻訳」の具体例:海外での干ばつニュース
例えば、「海外の主要産地で記録的な干ばつが発生した」というニュースを耳にした場合です。
「大変そうだな」と思いつつ、いつも通り発注を続ける。
「干ばつで農産物の収穫が減るなら、原料価格が高騰し、世界中で買い付け競争が起きるはずだ。国内の仕入先も在庫確保に苦労するだろう。今のうちに仕入先と状況を共有し、半年分の在庫を前倒しで確保するか、代替品の検討を始めておこう」
「起きてから動く」のではなく、「予兆を捉えて動く」。この時間差が、有事の際の会社の命運を分けます。 常に視野を広く持ち、一見関係なさそうなニュースの中に「自社のリスク」を見つけ出すこと。その情報の感度こそが、不確実な時代に会社を守り抜くために必要な視点です。
視点⑤ 「一人で抱え込まない」と決め、社内外に協力者を増やす
調達マネジャーは、社内と社外の「板挟み」の最前線にいるため、どうしても課題を自分一人で抱え込み、孤立してしまいがちです。しかし、どれほど優秀な調達のプロであっても、物理的な限界や市場の荒波を一人で食い止めることはできません。大切なのは、今の状況を正直に開示し、社内外に「味方」を増やす勇気を持つことです。
一人で抱え込まないことが必要な理由
課題を一人で抱え込み、情報がブラックボックス化してしまうと、社内からは「なぜできないのか」と不満が募り、仕入先からは「無理ばかり言われる」と不信感を持たれてしまいます。最悪の場合、心身を壊してしまうほど自分を追い詰めてしまうことにもなりかねません。調達の課題を「組織の課題」として共有することが、結果的に最短での解決に繋がるのです。
経験談「未曾有の納期トラブルを乗り越えた時」
私自身、かつて受注が一気に3倍に跳ね上がり、深刻な納期遅延に直面したことがあります。 社内からは「早く入れてほしい」と連日の督促を受け、一方で仕入先からは「これ以上の増産は無理です」と断られ、まさに絶望的な板挟み状態でした。
私は一人で悩むのをやめ、毎週欠かさず仕入先の工場へ出向くことにしました。現場で直接ひざを突き合わせ、「来週はこの数量を納品してもらえないでしょうか。」と誠意を持ってお願いし続けたのです。
すると変化が起きました。仕入先が工面してくれた納品予定表を見た社内のメンバーが、「これだけ現場に通って交渉しているのだから、これが限界なんだな」と理解してくれるようになったのです。結果として、営業も「お客様に状況を説明し、分納の承諾を得てくる」と動いてくれ、組織全体が一丸となってその危機を乗り越えることができました。
「自分がなんとかしなければ」という責任感は素晴らしいものですが、限界を感じたときは一歩踏み出し、周りを頼ることが必要です。現場に足を運び、事実を伝え、誠実に協力を仰ぐ。その泥臭いアクションが社内の共感を生み、最強の協力体制を築き上げる鍵となります。
まとめ 2026年、市場から渇望される「調達のプロフェッショナル」の5つの視点
- 視点① 価格交渉は「感情」ではなく、法改正や市況データという「客観的な事実」を共通言語にする。
- 視点② 社内のこだわりを否定せず、「コストと供給リスク」をセットで提示して、経営的な判断を仰ぐ。
- 視点③ 安さだけでなく、有事に「あなたのためなら」と動いてもらえる「助け合える関係」を平時から耕しておく。
- 視点④ 世界のニュースを他人事とせず、「自社の欠品リスク」に翻訳して、先手で対策を打つ視野を持つ。
- 視点⑤ 課題を一人で抱え込まず、現場の事実を誠実に開示することで、社内外に強力な協力者を増やす。
社内と仕入先の板挟みで、孤独を感じている調達マネジャーの方も多いかもしれません。 しかし、不確実な今だからこそ、調達は会社の命運を握る「要」の存在です。
まず今日から、「今、一番の懸念していることについて、あえて周囲に正直に話してみる」ことから始めてみてください。
調達のプロの仕事とは、一人で抱え込むことではなく、周囲を巻き込み組織の力に変えることです。調達マネジャーであるあなたが誠実に一歩踏み出せば、必ず協力者は現れますよ。
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